双子幻綺行―洛陽城推理譚

双子幻綺行―洛陽城推理譚

 盛唐−正確には武周といったほうがいいのか−を舞台とした連作ミステリ。歴史好きとしては聖神皇帝すなわち武則天太平公主,臨淄王など歴史にその名を残す人物の登場が嬉しい。というか,じゃなければ舞台をわざわざ唐代にする必要もないので,当然といえば当然なんだけど。
 主人公は武則天につかえる双子の兄妹の女官の馮香蓮と宦官の馮九郎の2人。彼らが洛陽で遭遇する幾多の怪事件に挑むというのが本筋。後半は宮中での権力闘争に巻き込まれることにもなる。無口で鋭敏な九郎と明朗快活で勝ち気な香蓮の組み合わせは,まあわりにありふれてはいるけど,この作品においてはそれが上手いこと作用しているように思う。ただ一番好きなのはやはり女妓の彩娘,彼女に尽きる。『吃逆』の宋蓬仙と同じような役回りではあるけど,この手の一途で才気のある女妓というのは,僕にとっては惹かれやすい人物像のようです。
 7編どれも甲乙つけがたいのだけれど,敢えて一番好きな作品を選べば「菊華酒」か。トリックとしては安直なんだが,二転三転しながら一点に収束する真相が面白かった。「昇竜門」もいいけど,ちょっと力業に過ぎる感もあり。ただこれはトリック云々よりも6編の終着点的な話なのでそれほど問題はないように思う。何より中国らしいといえばあまりにも中国らしいしな。
 ところで主人公の双子が長じて歴史上のあの人物になるというのは完全に予測できました。というか,武則天玄宗の時代,宦官と揃えば導き出せる答えはそう多くないかな,と。太平公主や臨淄王,そして双子の行く末を知る後世の僕としては些か複雑な気分になりました。気にせず楽しむのが得策だとは思うんだけどね。