支那そば館の謎―裏(マイナー)京都ミステリー

支那そば館の謎―裏(マイナー)京都ミステリー

 京都を舞台に元広域窃盗犯,現寺男の有馬次郎が出会う幾つかの事件を語る連作短編集。割と硬質な文章を書く北森鴻にしては珍しくユーモアに溢れた,というか些かやりすぎ感すら漂う作品に仕上がっている。北森鴻の硬質な文章が好きな身としてはちょっと面食らったというか戸惑ったというか。良くも悪くも異色の作品ではある。
 内容としては北森鴻が得意とする美味しそうな料理の描写に始まり,京都が舞台である意味を存分に生かしている。ただ仕方がないことなのだが登場人物の台詞の殆どが京都弁なのにはちょっと苦手感を抱いてしまった。決して京言葉は嫌いでない,というよりむしろ好きな部類ではあるのだが文章として読むにはやはり辛い。あと京都の地図が欲しかったなというのも本音のところ。従姉妹が住んでいる関係で京都の地理に多少は明るいとはいえ,それでも部外者ではよく分からない場所も多かった。
 悪くはないけど,北森鴻の作品としては多少物足りなさも感じる。逆に言えば,この作者に期待している水準が高すぎるだけで,存分に楽しむことが出来た作品ではある。作者も楽しんで書いているのがよく分かるし,まあこれはこれでありなのかな,と。ただ作中に登場するバカミス作家水森堅はあんまりだろう。なんといっても代表作が『鼻の下伸ばして春ムンムン』*1なんだもの。

*1:勿論,北森鴻の代表作『花の下にて春死なむ』のパロディであることは言うまでもないでしょう