珍しくミステリでもSFでもファンタジーでもない−いやファンタジー的な作品ではあるかも−アメリ現代文学を読んでみた。というかまあ,中学生だか高校生だかのころに一度読んでいるので再読ということになる。実のところは,面白かった,という以外の記憶はなかったけれども。
 7つの作品からなる短編集。どれもそれぞれに個性的な作品ばかりなのだが,白眉はやはり冒頭を飾る中編「アウグスト・エッシェンブルク」だろう。天才的なからくり人形職人のいわば一代記ともいえる作品でどこか郷愁を覚えてしまう。幼いころに読んだ児童文学に通じるものを感じるのは気のせいか。同じことは「雪人間」にも言える。そしてこの2つの作品はともに視覚描写を刺激することが大。前者のからくり人形にしても,後者の雪像にしても,一度見てみたくなる願望に駆られてしまう。これらの作品がどこか幻想的な作品なのに対して,第二部に収められた「太陽にに抗議する」「橇滑りパーティー」「湖畔の一日」は日常の一部を切り取った作品。ごく些細な出来事が日常に暗い影を落とす様を描いている。この中では「橇滑りパーティー」が好きかな。
 久々に読んだけれども,やはり好きな作品であることに違いはない。あまり,現代文学ってのは得意な分野ではないのだが,こういったファンタジー的な要素がからむ小説は相性がよいようだ。