七姫幻想

七姫幻想

 この人の本ってじっくり読んでしまうな。読み流すのはあまりにも惜しい。
 七夕の織姫をモチーフにした7つの物語からなる連作短編集。1編1編はそれぞれが時代*1の違う独立したもの。ただ通して読むことによって,その根底に流れる1本の糸を感じることが出来る。そして各短編の末にその物語に絡んだ歌が載せられているのも嬉しい。和歌って好きなんだ。
 7つの物語はそれぞれ織姫の異称に因んだ名前が付けられている。この辺りの感覚も個人的に非常に好み。古語のもつ独特の雰囲気が上手く生かされているように思う。どの作品もそれぞれに謎めいていて魅力的なのだが,敢えて一編を選ぶなら「薫物合」*2か。大好きな歌人のひとり清原元輔が出てくるだけでたまりません。そういえば時代に応じた著名な人物が登場するのもこの作品の大きな魅力かも。そういった意味では日本史好きにもお勧めできる作品ではあります。悲劇性は強いけれど,後味も決して悪くはない。
 森谷明子の作品を読むのはこれで3作目。それぞれに違った趣きの作品でありながら,どれも充分に楽しむことが出来るってのが嬉しい。これからも注目していきたい作家です。

*1:ちなみに上古から江戸時代まで

*2:たきものあわせ,と読みます