大東京三十五区 冥都七事件 (祥伝社文庫)

大東京三十五区 冥都七事件 (祥伝社文庫)

 いいなあ,この雰囲気。もともと昭和初期の怪奇で猟奇に満ちた雰囲気が好きなんだけど,そのオレの嗜好に完全に一致している。怪奇で猟奇でありながらも陰惨さを感じないのは,講談調の文章に因るところが大きい。リズムもよく,何より軽やかさが本当に魅力的。一見したところでは読みにくさを感じるかもしれないが,そんなことは微塵もなく。この作品にはこの文体こそが似つかわしい。
 タイトル通り7編を収録した短編集。どれも時代に即した事件というか,探偵小説の趣を感じさせる魅力的なものばかり。トリック自体は案外に他愛のないようにも思えるが,その見せ方が本当に上手い。個人的には「天狗礫,雨リ来タル」が好きかな。軍の台頭が顕在化する昭和初期にこそ相応しい事件のように思える。
 続編も出ているみたいだけど,この作品の結末からどのように繋げるのかがまるで分からない。本作で一応の完結は見ているように思うんだが。とりあえず,続く作品を読んでみようと思います。