コッペリア

コッペリア

 すれ違う想いの切なさと哀しさに満ちた物語。
 加納朋子の作品にしては珍しく長編だなと思ったら,連作短編集*1を除けば初めての長編小説なんだとか。そのせいか雰囲気はいつもの加納朋子作品とずいぶん違っています。いつもの温かさに満ちた文体とは異なり,どこか毒さえも孕んだ陰鬱な雰囲気。ひとりの人形作家の作品に踊らされる人間たちの皮肉な人間模様が描かれています。それでも作品に引き込まれていくのは,やはりストーリーテリングが上手いから。複数の人間の一人称で語る手法が功を奏しているように思います。
 この作品のモチーフとなっているバレエ「コッペリア」をあらすじ程度しか知らないのは残念でした。もっと僕に深い知識があれば,より楽しむことができたのかな,と。それでも充分に楽しむことが出来ました。今まで優しさに満ちた作風のみを期待していた加納朋子の新たな側面を見たように思います。勿論,彼女の温かい作品は本当に大好きなのですが,たまにはこういった作品も書いて欲しいかな,と。
 以下ネタバレにつき,未読の人は絶対に読まないように。
 結末は本当に加納朋子らしくって安心しました。彼女の作品に求めるのはこういった終わり方なんですよね。若竹七海あたりならシニカルで毒気に満ちたエピローグを付けてきそうだけど*2
 すれ違う想いの切なさと哀しさ……そして再び巡り会う喜びに満ちた物語。

*1:短編が繋がって長編になるという意味で,ね

*2:若竹七海のそういう作風も好きで愛して止まないんだけど(苦笑)