写本室(スクリプトリウム)の迷宮

写本室(スクリプトリウム)の迷宮

 面白い!とはっきり言えないのが残念。中盤までは作品にすごく惹かれるものを感じていたのだけれど,終盤以降に加速度的に失速してしまっている*1せいで,印象があまりよくない。鮎川哲也賞受賞作品ということで巻末に選者の評が載っているのだが,まさに彼らの言うとおり。出版にあたって,おそらく改稿していないと思うのだが,それはあまりにもお粗末なのではないかなと思う。
 雰囲気はすごく素敵。作品を通じて流れる衒学嗜好や南ドイツの古城を舞台に繰り広げられる優雅で知的な推理ゲームには胸躍らされた。またシャーロック・ホームズ好きならば間違いなくニヤリとさせられる趣向も盛り込んである。だからこそ,提示された謎に見あった解答を期待しすぎてしまった感もある。ただ,どうしても,広げた風呂敷を上手く畳めない種の作家に思えてしまうんだよな。とりあえずこれがデビュー作と言うことなので,他の作品も読んでみようと思う。繰り返すけど,雰囲気作りは非常に僕好みの作家であることに間違いはない。

*1:分かりづらいけど,でも本当にそんな感じ