親交のあるサイト様の感想を読んで興味を持った本。
 北村薫の《円紫さんと私》,加納朋子ななつのこ』『魔法飛行』『スペース』に連なる東京創元社お得意の日常系のミステリ。面白いことに《円紫さんと私》の〈私〉,『ななつのこ』『魔法飛行』『スペース』の駒子ちゃん,それにこの『れんげ野原のまんなかで』の文子さんと,みなこの手のミステリの主人公って本が好きという点で共通しています。北村薫の〈私〉の影響が大きいのか,それともこの手のミステリの作品見では本好きを主人公として造型しやすいのか,興味深いところ。逆を言えば本好きでない日常系ミステリの主人公ってあまり見ないな,と。僕の少ない読書量からだけでは断言できませんが。
 紡がれるのは図書館を舞台にした,ごくささやかな謎を秘めた5編の物語。第4話「二月尽−名残の雪」を除いては二十四節気の名前がタイトルに添えられています。なんで第4話だけついてないのかは不思議。確かに立春清明の間なら雨水,啓蟄春分が該当していて,話の内容にそぐわない気もするけど。でもどうせなら統一したほうが綺麗だったんじゃないかなと思います。〈二月尽〉って言葉も趣があって素敵ですけれども。
 謎解き自体よりも図書館の日常風景の描写が面白かった。そして,物語の端々で仄めかされる,例えばアンドレメアリ・ノートン『床下のこびとたち』なんかの名前を見るたびに懐かしくなってしまいます。第3話「立春−雛支度」でちょっと気になるところはあったけれど,それ以外では特に不自然なところもなく,読んでいて楽しい,どこか安らぎを得ることの出来る本でした。少し物足りなさも残るけどね。続きは書かないのかなあ……。