街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)

街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)

 昭和初期を舞台とした連作短編集。上流の女学生*1を主人公に据えているために典雅な雰囲気に満ちている一方で,どことなく淋しさを感じてしまうのは彼女たちがこれから直面するであろう歴史的変革を知っているせいかもしれない。直接,この物語とは関係ないはずなんですが。
 相変わらず北村薫の文章は上手だな,と溜息を漏らしてしまう。物語としてはそれほど目新しさはなくごく平凡なもの。それをここまで読ませてしまうところに北村薫の真価があると思う。少なくとも僕のような小説はまず文章ありきと思える人間には。
 主人公英子のもとに女性運転手のベッキーさんがやってきたところから始まる物語。探偵役を担うのは英子のほうなんだけど,静かに側に控えるベッキーさんは口には出さないけれども全てを見透かしているような気がする。印象としては性格のいいメアリー・ポピンズって感じ。作者は意識していないのかもしれないけれど。
(追記)
 巻末インタビューで《円紫さんと私》シリーズを語っている中で

このシリーズの場合,「彼女(=〈私〉)が好きだ」といってもらえれば,もうそれでいい−というところがあります

 ってあるんだけど,残念ながらこの目論見はうまくいってないんじゃないだろうか。意外に〈私〉を好きな人っていない気がする。僕も嫌いじゃないけど,ちょっと苦手ではあるし……。というか,正子ちゃんがあまりにも魅力的に過ぎるのが問題なのかも。

*1:懐かしい響きだ