旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))

旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))

 《冬狐堂》宇佐見陶子を主人公とする連作骨董ミステリ短編集。それぞれに美に携わるものの業が描かれている。個人的には萩を舞台とした「陶鬼」に馴染みを感じる。というのも萩は僕が小学校時代の4年間を過ごした場所だから。おかげで情景がまさに手に取るように分かって懐かしさを感じてしまった。10年以上訪れてはいないけれど,やはり僕の中では想い出の深い大切な土地である。そして萩焼は僕のもっとも好きな焼き物なのだ。
 ミステリとしてはやはり表題作「緋友禅」が一番か。「奇縁円空」もそうだが,芸術に携わるものの狂おしいほどの執念は僕には理解しようと思っても理解し切れるものではない。そこには善悪を越えた何かがあるのだろうか。その先にある何かを目にとめた人間だけが芸術家となる資格を得るのかもしれない。ふと,そんなことを思った。