夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 再読。何度読んでもやっぱり好きな作品。ここまで好きな作品ってそんなに多くはない。加納朋子ななつのこ』『掌の中の小鳥』とか若竹七海スクランブル』とか恩田陸『光の帝国』とか。
 3編が収録されている中で一番好きなのは表題作「夜の蝉」。これに尽きる。〈私〉と姉との微妙な関係。そしてそれが氷解した一夏のできごと。そこに僕は限りない美しさを感じてしまう。自分の思いを上手くまとめられないのが本当にもどかしいけれど,ただ言えるのはこの作品に出逢えて本当によかったということ。こんな出逢いがあるからこそ本読みは止められない。
 「六月の花嫁」で〈私〉の親友江美が囁く「ごめんね」。そして「夜の蝉」の最後で〈私〉が呟く「おねえちゃん」。このたったひと言で秘められた思いの全てを表現してしまう北村薫という小説家の文才に僕は憧れてしまう。そして思ってしまう。この人にはかなわない,と。
 ……それにしても。『秋の花』を読んでしまっている身としては「夜の蝉」の冒頭に登場する〈私〉の後輩2人組の姿に哀しみを覚えてしまう。